TOHOKUUNIVERSITY Startup Incubation Center

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INTERVIEWインタビュー

株式会社⾥⼭エンジニアリング

Satoyama Engineering Corp.
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株式会社⾥⼭エンジニアリング

Satoyama Engineering Corp.
[ お問合せ ]
下記ウェブサイトよりお問い合わせください
[ ウェブサイト ]
https://satoyama-engineering.com/
[ 所在地 ]
〒989-1501 宮城県柴田郡川崎町大字前川字松葉森山25番地8
INTERVIEW

地域の木材を活用した蓄電池で、
持続可能な社会を実現する

 「木は持続可能の原点」。株式会社里山エンジニアリングの中安祐太CTOはそう話す。近年荒廃が進む里山の資源を電極材料に使用した「ウッドバッテリー」を開発し、地球環境にやさしく、高性能な電池の実現を目指している同社。視線の先には、持続可能な社会が広がっている。

リチウムイオン電池の「非持続性」が
生物多様性を減らす

 生物多様性の減少に、強い危機感を抱いている。かつて里地里山では、人々が食料や薪などの燃料を手に入れる場所として機能していた。いわば、自然と経済活動が一体化している状態にあった。現在はどうだろうか。都市部中心の生活が人を里山から遠ざけた結果、山は荒れ、イノシシやクマによる被害が深刻化した。また、太陽光パネルの設置などの大規模開発が進み、その地域の自然環境や生態系を大きく損なっている現状がある。自然豊かな里山は失われつつある。


 とはいえ電気もガスも使わない原始的な生活に戻そう、という話は全く現実的ではない。どうしたらよいのか。解決策として、経済的発展と環境保全との両立を目指すグリーン成長に注目が集まっている。しかし、「グリーン成長では問題は解決されない」と、本学学際科学フロンティア研究所助教で同社の中安祐太CTOはそのひずみを指摘する。

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 グリーン成長実現の核として挙げられている再生可能エネルギー。再生可能エネルギーは天候による影響が大きく発電量が不安定なため、安定的なエネルギーの供給には蓄電池が不可欠だ。現在、蓄電池として主に使われているのはリチウムイオン電池だが、リチウムイオン電池は、原料に多くの鉱物資源を含んでいる。ここに同社が「非持続性」と表現する問題がある。


 「現状では、採掘する資源を石油や石炭から他の鉱物資源に変更しただけだと言えます。石油・石炭と同じように電池材料に使用される鉱物資源も、大きな会社が土地を買って採掘し、工場に集めてプロダクトを作るという流れは全く変わっていません。これでは問題は解決されない」と中安CTO。レアメタルの採掘量の少なさや、採掘地が限定的で価格変動の影響を受けることなどを考えると、自国で自給できない資源に頼ることの危うさが見えてくる。鉱物資源を掘削することによって現地の生態系が破壊される問題もある。同社の倉田慎CEOは、「リチウムイオン電池でエネルギーを蓄えても、生物多様性が減ってしまっては、人間社会や地球環境自体が崩壊してしまう。そこから変えていかなければならない」と力を込める。

活性炭から作る環境にやさしい蓄電池の開発

 これ以上地球環境を損なわず、むしろ改善していくためには、自分たちが使うデバイスも環境に負荷を与えないもので囲まれるべきだ。そんな思いから生まれたのが同社の「ウッドバッテリー」だ。倉田CEOが「森林資源を活用した持続可能で安全な電池」と話す通り、材料にレアメタルを使用しない、環境に配慮した電池となっている。レアメタルの代わりに電極に使用されているのは、有機物を埋め込んだ活性炭。電極に金属が含まれず、軽元素のみで作られているため、環境への負荷を小さくすることができる。同社は、最終的には定置型の蓄電池としてウッドバッテリーを市場投入していきたい考えだ。国内外の蓄電池の市場は拡大傾向にあり、近年は環境保全に取り組む企業も増えていることから、一般家庭はもちろん、そういった企業に使用してもらうことを想定している。


 活性炭に有機物を埋め込んで電極にする「有機レドックスキャパシタ」の技術は、以前から本学で研究されていたが、石油由来の活性炭を使用しており、電池の性能面でも課題があった。中安CTOは「活性炭を木質資源で作れないか」と考え、木質バイオマス由来の活性炭を電極に使用。鉛蓄電池よりも耐久性に優れ、リチウムイオン電池よりも急速な充放電能力を持つ電池を実現した。既存の電池の性能を上回る部分がありながら、かつ環境にもやさしい電池を作ることができる――開発の手応えを得たことで、社会実装に向けた動きが加速した。

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適正技術としてのウッドバッテリーが叶える未来型の自給自足

 根底には、適正技術の考えがある。適正技術とは、社会の与えられた環境や条件、需要に最も有効な技術のこと。中安CTOは「今の日本の中山間地域には、適正技術が存在していない」と話す。「人が都市部を中心に生活しているので、都市部を基準にして作られる技術がほとんどです。でも、都市部にないような地域の資源と地域性を含んだ技術があるはずだと思っています」。中安CTOが思い描くのは、ただ自然に回帰するのではない、未来型の自給自足だ。「ライフスタイルだけを変えるのではなくて、そこには地域に適正な技術が必要です」とその必要性を説く。同社にとってウッドバッテリーは、目指す社会を実現するための手段の一つなのである。


 同社は今後、ウッドバッテリーの開発を進め、更なる性能の向上を目指す。製品の生産開始は2026年の予定だ。長期的な目標としては、ウッドバッテリーの「地産地消」も視野に入れる。日本各地に生産拠点を置き、その地域にある木材を使ったウッドバッテリーを生産していくという。電池に東北産、四国産などがあるイメージだ。


 会社としてのあり方も持続可能な形を模索しているという。短期的な成功を求めるのではなく、何百年先も残り続ける会社。それが里山エンジニアリングの目指す姿だという。持続可能な社会の実現を目指し、ウッドバッテリーとともに一歩一歩進んでいく。

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