大規模な地震の発生後、津波の浸水範囲や被害を自動で即座に予測する「リアルタイム津波浸水・被害推計システム(RTi-cast)」を開発。RTi-castは南海トラフ地震を想定した内閣府のシステムとして導入されており、CTOの東北大学災害科学国際研究所・越村俊一教授は「国内外に普及させ、人を救うためのさまざまなサービスを展開していきたい」と話す。
東北大学で津波予測を研究してきた越村教授は、2004年のインド洋大津波、そして2011年の東日本大震災に直面する中で、災害時には「津波の『高さ』だけでなく、『どんな被害になるのか?』を予測すること」「被害状況を正確に再現するより、リアルタイムで速く予測すること」が必要だとの課題意識を持つ。
津波被害をリアルタイムで予測できるシステムを開発・研究するため、2012年から理学や数学などの異分野の研究者や民間企業との産学連携の研究チームを発足。2015年には総務省のG空間シティ構築事業に採択され、高知県で地震発生から30分以内に津波の被害を予測する実証実験に成功した。この研究チームが元となり2018年、東北大学と国際航業、エイツー、日本電気が共同で「RTi-cast」を設立。国際航業の村嶋陽一氏が代表に就任した。
同社が開発した「リアルタイム津波浸水・被害推計システム(RTi-cast)」は、スーパーコンピューターを用いて、大規模な地震発生が起きると自動で津波の高さや浸水範囲、浸水範囲内の人口や建物被害を予測し、30分以内に情報を配信できるシステムだ。
同社は会社設立と同時期に内閣府の防災部門と契約を結び、RTi-castはすでに南海トラフ地震の津波予測システムとして国に導入されている。南海トラフ地震が起きた場合、システムは30分以内に「どこまで津波が来て、どれくらいの被害になるのか」のレポートを自動で内閣府に送り、その内容が第一回目の災害対策本部の会議資料として利用される計画だ。「浸水範囲や地域ごとの人口や建物の被害の規模を早い段階で予測できれば、その地域に対しどんな物資や医療などの支援を送ればいいのかがわかる」と、越村教授はリアルタイム推計の意義を強調する。
現在は国だけでなく、地方自治体、保険会社や交通機関などの民間企業もこのシステムの導入を検討し始めている。海外からも引き合いがあるといい、越村教授は「国内外に普及させていくのがミッション」と話す。
一方で特に民間企業では災害に備えるためのシステムに大きな予算を付けることが難しく、どうユーザーを増やすかは課題となっているようだ。「例えば交通機関であれば、リアルタイムで浸水の予測を受け取れることで、安全な交通機関の運用に繋げることができる。災害に備えることは実は『コスト』ではなく、会社の価値を高める投資、『バリュー』になるはずです。まずは社会の災害に対する考え方や付き合い方を変えていく必要を感じています」
将来的には一般向けに津波予測の情報を発信する「浸水予報」をすることも目指しており、現在そのための研究を進めている。「浸水予報ができるようになれば(サービスとして)ものすごく広がっていく。車が自動運転時代になれば、災害情報に機械がリアルタイムで反応して危機を回避する技術も可能になり、そのための情報源にもなる」と、越村教授は可能性の大きさを語る。
「まずは日本全国を予測できるシステムを作りたい。次の段階としてシステムを輸出し、津波のリスクのある世界の国々で使ってもらうことも目指す。人を救うためのサービスをしていく、というのが、会社の究極の目標です」