太陽電池や電子部品の配線などに用いられる「銅ペースト」を開発し、世界で初めて量産化に成功。金、銀、はんだ等これまで電子部品に使われてきたあらゆる導電性金属を置き換え、低コスト・低環境負荷を実現できる機能性に優れた新たな素材として注目されている。
半導体の配線を銅素材で開発し世界の半導体メーカーに採用されるなど、銅素材の実用化に携わってきた東北大学工学研究科の小池淳一教授。会社を設立したきっかけとなったのは、2011年の東日本大震災だったという。「震災の直後に石巻市へ行って大変な状況を目の当たりにして、私のやっていることで役に立てることはないか、と考えたんです。原発事故もあり、再生可能エネルギーの普及のために太陽電池の配線で使われている銀を(より低コストの)銅に置き換えられないか、ということで研究を始めました」
研究は科学技術振興機構の大学発新産業創出拠点プロジェクト(START)に採択され、2年間の研究開発期間を経て「ものになりそうだということが見えてきた」。2013年4月、研究プロジェクトのメンバーだった小池美穂さんが代表となり、小池教授がCTOに就任して「銅ペースト」を実用化する「マテリアル・コンセプト」を設立した。
同社が量産化に成功したという「銅ペースト」は、素材の形や厚さを自在に操ることができ、20ミクロンという微細な配線も作製できる。「マヨネーズのように、注射器のような容器から空気圧で線を描くこともできるし、印刷の版を作ってシートに焼くことで、ぱっと配線を作ることもできる」と、小池教授はその優れた特徴を語る。
太陽光発電に用いられる太陽電池の配線にはこれまで銀が使われてきたが、これを銅で代替できれば高価な銀と比べ圧倒的にコストを抑えられ、印刷による作製が可能になるため生産効率も上がる。銅はこれまで腐食しやすいなどの特性が課題と考えられてきたが、同社は銅ペーストによる配線でついに「銀と同じ特性を出せるようになった」という。
2018年ごろからは事業の主軸を電子部品の配線や電極の作製にシフトし、銀だけでなく金やはんだ、銅メッキ、銅箔などを代替する素材として「銅ペースト」を用いている。開発中の部品は自動車の車載部品や、通信機器のセンサー、LED照明やディスプレイなど幅広い。小池代表は「素材のメカニズムをしっかり理解しているからこそ、伸びるものを作る、厚みを出す、接合するーなど、お客さんの要望に合わせてカスタマイズでき、お客さんにも扱いやすいものを作れるのが私たちの強み。軽量化、省エネ化、低環境負荷を実現できるのも価値だと思います」と語る。
扱うのは埃一つ許されないミクロンの世界。小池代表は「毎朝みんなで床掃除するところから一日が始まるんです」と、日々の地道な努力を明かす。「地域を活性化したいという志を持って起業しましたし、ベンチャーのみんなのスターになりたいですね。世のため人のためになる事業をしていきたい」。小池教授も「震災後に起業したきっかけの一つは、東北に製造業の会社が少ないこと。世界に発信し、世界と勝負ができるような製造業の立派な会社を作って、新しい就職の場ができればいいなと思う」と地域への思いを語る。
東北大学発ベンチャーの先駆けとも言える同社は、大学内の研究のさらなる事業化にも期待を膨らませている。小池教授は「工学研究科で研究企画会議の委員をしていたときに色々な先生方の素晴らしい研究を聞くことができ、世界と戦えるような事業のネタがたくさんあると思いました。工学部の教授会は150人集まるのですが、150講座に准教授や講師、助教もいて×3で450人、そして皆さん3つくらい研究テーマを持っていると考えると、1000を超えるネタがあるということになる。本気になったらすごいことになりますよ」と熱を込める。
小池代表は「我々よりもっといいシーズもいっぱいあると思います。事業化したいシーズがあれば、ぜひご紹介いただきたい。まずは私たちと近い領域の研究分野があればマッチングして、面白い研究、お互いシナジーが働くような研究と一緒に事業展開していけたら」と東北大学の教員たちに期待を寄せた。