TOHOKUUNIVERSITY Startup Incubation Center

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INTERVIEWインタビュー

​アイラト株式会社

Airato. Inc
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アイラト株式会社

Airato. Inc
[ お問合せ ]
下記ウェブサイトよりお問い合わせください
[ ウェブサイト ]
https://airato.jp/
[ 所在地 ]
​〒980-8572 宮城県仙台市青葉区荒巻字青葉468-1 東北大学マテリアル・イノベーション・センター青葉山ガレージ内
INTERVIEW

AIを用いて、
医療スタッフの負担軽減と
高品質な放射線治療を

 日本人の死因第1位のがん。がんになる人の数が年々増加しているなかで、手術や抗がん剤による治療よりも侵襲の少ない、放射線治療の需要が高まっている。しかし、治療計画を作成する人の能力や経験に依存して品質に差が出てしまうなど、課題も多いのが現状だ。さらに、アナログな部分も多い病院業務の中で複雑な治療計画装置を扱うことは医療スタッフの負担にもつながっている。アイラト株式会社では、機械学習を用いたソフトウェアを提供することで医療スタッフの負担を軽減し、より高品質な放射線治療を患者に届けることを目指す。

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放射線治療の需要が高まる一方、
治療の質に課題も

 近年がんの治療に導入されているのが、強度変調放射線治療(IMRT)とよばれる技術だ。放射線の照射中に、その強さに強弱をつけ、腫瘍に対して集中的に照射を行うことができるため、従来の方法よりも体への負担を少なくする(低侵襲)ことができるというメリットがある。高齢化によりがんになる人の数が増加し、がん患者の約3分の1が働きながら治療を受けている現代。他の治療法と比べて低侵襲な放射線治療の需要は益々多くなっていくと思われる。一方で、課題もある。治療計画を作成する際に利用する治療計画装置は、操作方法が複雑であるため、操作になれたスタッフとそうでないスタッフが存在することで、品質にばらつきが発生することである。安全性が特に求められる医療分野において、安定的な治療提供体制を構築することは最重要課題となる。


 東北大学大学院医学系研究科の角谷倫之病院講師は、放射線腫瘍学分野医学物理グループで、長年放射線治療の画像処理や、人工知能についての研究を重ねてきた。かねてから自身の研究を社会に還元したいと考えており、東北大学スタートアップ事業化センターのビジネス・インキュベーション・プログラム(BIP)に応募。AIを用いて、放射線治療の品質の向上と、医療従事者の負担軽減を叶えるソフトウェアの開発に乗り出した。

 事業を進めていく中で、角谷講師は会社にCEOを迎えることを考え始める。そこで出会ったのが、橋本健二氏だ。放射線治療関連の事業に携わっていたほか、ITベンチャー企業に勤めていた経験を持つ橋本氏。CEO就任のオファーを受けたときの心境を「目の前にバトンが落ちていた感覚」と表現する。「この課題の解決を誰かがやらないといけないのに、誰もやっていない。じゃあ僕がしかるべきところまでバトンを届けないといけないなと。そんな感覚でした」角谷講師が「橋本さんは前職のベンチャー企業で上場まで経験していて、今もその経験をすごく生かしてもらっている」と信頼を寄せれば、橋本氏も「医療スタッフとして課題に直面している当事者であり、そのソリューションを提案しようとしているのが角谷さん」と話す。意気投合した2人は、橋本氏をCEO、角谷講師をCTOとして、2022年3月にアイラト株式会社を設立した。

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AIVOT(アイボット)で「負担軽減」と「品質向上」を同時に実現。
医療現場の現状にメスを入れる

 同社が開発しているのは、治療計画の立案を支援するAIソフトウェア「AIVOT(アイボット)」。治療計画を作成する際に、従来は人が行っていた作業をAIで代替することで、現場の負担を軽減することができる。そもそも医療分野は、デジタル化がうたわれる今日において、業務のシステム化や自動化、効率化が比較的進んでいないとされる。

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さらには医師不足や医療費の増大などの課題も指摘されており、解決が望まれている状況だ。AIVOTにはそういった課題にメスを入れ、解決に導くことが期待されている。また、AIVOTは治療の品質向上にも貢献する。IMRTでは複雑な機械操作が求められるため、より緻密な治療計画を立てることが求められる。そのため計画を立てる人がどれだけ熟練しているかによって治療の質が左右される。そこで、AIVOTを使って治療計画作成のサポートをすることで、治療品質のばらつきをなくし、より安全で高品質な治療を患者に提供することを目指す。誰が計画を立てたとしても、AIVOTで高品質の治療計画を作ることが可能になるのだ。


 さらに、角谷講師は治療計画装置自体の課題も指摘する。「計画装置の設定が複雑すぎて、ソフトウェアにあまり明るくない人が使ってしまうと、良くない計画ができてしまう。それを実際に治療に使っていることもある」と危機感を口にしたうえで、その課題解決に意欲を見せる。「最終的には、我々の技術で、(医療スタッフであれば)だれでも患者さんに提供できる計画を立てられるようにできたらいいと思います。」

「本当に世の中の役に立つ製品を作る」。
課題解決で、より多くの人が活躍できる社会に

 AIVOTは現在、プロトタイプを医療機関で実際にテストしている状況だ。現場からのフィードバックを踏まえたうえで、「正直まだまだ」と橋本氏は話す。「我々のAIを利用することで、品質のばらつきを低減できることはわかってきました。治療の品質を平準化できるということになるのですが、他方で、個別化という観点からは遠くなっているとも言えます」。医療現場にはその個別化を重要視するスタッフももちろん存在する。現場が求めているニーズとのすり合わせが直近の課題だ。一方で、多くの期待も受けている。「現状の課題が改善できたら、良い価値が生まれるんだとユーザーに期待してもらいつつ、一緒にものづくりに取り組んでもらっている」と橋本氏。本当に世の中の役に立つ製品を開発するために、妥協なく取り組んでいく構えだ。


 会社の展望について、角谷講師は3つのフェーズを思い描いている。「最初のフェーズの2年ほどで、治療計画にかかる時間を短くする業務効率の改善を目指します。人間よりもAIで計画を立てた方が治療成績が上がる、というのが次のフェーズで、3年くらい。その先の3年で、計画装置自体の課題を解決できる状態に持っていきたい」。この技術でさまざまな課題を解決でき、より多くの人が活躍できる社会にできる。そう確信している。

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