2025.10.27
医療ニーズが高まるなかで、今、看護師不足が深刻な問題となっています。宮城県の医療機関でも、看護師不足による病棟の閉鎖が起こっています。
ことし4月に起業した株式会社アルゴナースは、「看護師のキャリアを支援するAIアプリ」で、そうした課題を少しでも解決しようとしています。目指すのは、現場で働く人に寄り添ったサービス。その思いを、代表取締役の平山英幸さんに聞きました。


「一人一人納得して働けるキャリアを歩んでもらいたい」と平山さん。
アルゴナースは、看護師経験のあるメンバーを中心に活動しています。サービスの柱となるのが、「看護師のキャリアを支援するAIアプリ」です。職歴やこれまでの働き方などのほか、仕事の価値観を測定する12の質問に答えると、「キャリアタイプ」「自己成長タイプ」「バランスタイプ」「プライベートタイプ」の4つのタイプで診断します。
診断結果をもとに、「総合病院」「専門病院」といった治療の範囲や、「急性期」「慢性期」「回復期」といった患者の治療ステージ、規模などから、その人に合う病院名を具体的に紹介してくれます。
平山さんは、「AIを用いた推薦アルゴリズム」が、ほかにはない特徴だといいます。
「特にエージェントを使った転職では、夜勤や残業時間などで実際とのギャップを感じる看護師が多くいました。そうしたギャップを減らすために、看護師2,000人の「現場の声」をアプリに反映させています。実際に働く人のデータをもとに職場を推薦できるのが強みだと思います」。
厚生労働省によると、全国の看護師などの看護職員は、2020年の時点でおよそ173万人。2025年には200万人近く必要とも言われ、看護師不足が深刻となっています。「看護師になったら、まず大規模の急性期の病院で3年修行をしなさいという文化や、給与が高い病院を選択する傾向があり、それに固執してしまう人が多い」と平山さん。転職者はもちろん、看護学生に対しても、最初から自分に合う職場を選べるようサポートしたいと考えています。 また、資格を持っていても働いていない「潜在看護師」は、およそ70万人いるとされています。平山さんは、自らが提供するアプリによって、病院が合わずに離職して潜在看護師になる人を減らしたり、復職したい潜在看護師の支援をしたりすることで、看護師の確保につなげようとしています。 「エージェント経由の転職者の離職率は高く、20パーセントを超えているのが現状です。自分が提供するアプリでは半分にしたいです」。
平山さんが看護業界に危機感を持ったきっかけは、がん患者専門の病院に勤務していた時の強烈な体験でした。 「同期が8人同じ部署にいたんですけど、2年目くらいのときに、4人続けて心を病んで来られなくなってしまったんです。これはやばいと思いました」。
担当していた患者が急変して亡くなるストレスや人間関係の問題も多い一方で、自分に合う病院選びができていないことも要因だと感じたといいます。
「自分の入ったところは毎日手術をするような病院で、いろんな看護師が給料が高いからと来る。でも本当は、回復期や慢性期の病院でゆっくり関わりたい看護師もいるんです。辞めた同期を見ていて、それぞれに合う場所を選べないと続かないと実感しました」。

平山さんは、3年間看護師として働いたのち、研究者になろうと東北大学医学系研究科へ進学。患者が自分らしく過ごすための「専門的緩和ケアの質の評価」などを研究していました。 そんななか、東北大のビジネスアイデアコンテストの存在を知り、起業という選択肢を考えるようになります。 「2021年に初めてエントリーしたアイデアは、「看護師のストレスマネジメントサービス」でした。受賞もしましたが、これだとビジネスにならないと言われて、ビジネスになる課題とは何かを考えるようになりました」。
また、医療系の大学院生を対象にした「未来型医療創造卓越大学院プログラム」に参加。ベンチャー企業の社長や大企業の新規事業担当者に「現場の課題の見つけ方」を学びました。 研究者志望だった平山さんですが、5年間研究をするなかで、「看護の研究を現場に届けようとする人が少ないと感じた」といいます。 「研究成果を実装する人がいないとだめで、自分がそれをやりたい」と、起業を決意しました。
そして、何人もの研究者に「いいアイデアないですか?研究の実用化に興味ないですか?」と連絡。半年かけ、看護師の離職の研究者である原ゆかりさん(集合写真中央)と事業を進めることになりました。 「原先生の研究は、自分のやりたいことと合致していました。起業までは大変でしたが、辞めていった人や、実際に看護していた患者さんたちのためになんとかしなきゃという気持ちがモチベーションになりました」。
アプリの実用化は来年度を見込んでいて、転職などが成立したときに病院が支払う紹介手数料について、AIを使うことで相場より引き下げることができるとしています。また、看護師のよりよい働き方のための部署配置システムの開発も進め、数年後には、東日本エリアに支援を広げることを目標としています。
「もともと患者さんのためになることをやりたくて看護師を志したので、一人一人が納得して働くための支援をして、持続可能な看護を目指したいです」。